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波形グラフで見る和音の響き【ギタリストのための音の科学 12】

前回は振動数の比で和音を見ました。

今回は波形グラフで複数の音を重ねた時の様子を見てみましょう。波形グラフというのは、例えばこのようなものです。

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この波形はどういう音を重ねた時のものか、この波形を見ただけでわかるという人は決して多くはないと思います。答えは後で示すとして、まずは重ねる音、一つ一つを波形グラフで示します。

どの音を使っても良いのですが、基本になる音としてAを選びます。波形はこのグラフです。

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そして、和音としてはA-C\#-Eにします。ただし、この三音は純正律に従い、振動数比は4:5:6になるものとします。するとC\#の波形はこうなります。

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Eの波形はこうです。

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この三音のグラフ、どれも高校の数学でやる三角関数\sin\thetaで、違いは\thetaの尺度だけ、すなわち振動数だけです。

波の高さが三音とも1になっているのは、三音の大きさを同じにした、という意味です。これから三音を重ねた和音の計算をしますが、その際に「三音の大きさは同じ」という条件で計算をしました。もちろん、三音の大きさを変えても計算出来ますが、ここでは「三音の大きさは同じ」という条件で計算した、ということです。

さて、A-C\#-Eの三音を重ねて(同時に音を出したという想定)、Aコードの波形を計算します。単純に3つそれぞれの波形計算の結果を足すだけです。

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このグラフを見ると、当然といえば当然なのですが、周期的な繰り返しパターンが見えます。横軸の数字で言うと0から1440の間の波形が繰り返されています。14403604倍ですね。この1440とか360という数字は何かというと位相ってやつなんですが、まあ、あまり難しく考えずに、音の波を重ねたらこうなった、程度でよいと思います。

きれいな振動数比になるA-C\#-Eの三音を重ねたので、重ねた結果は周期的なパターンを描きます。これが我々の耳と脳には「響きの良い和音」として認識されるようです。

ちなみに、C\#の代わりにCを使い、A-C-Eの三音でAmコードの波形を計算すると、以下のようなグラフになります。

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Aコードの場合よりも周期が長くなり、3600周期の波形になりますが、周期的なパターンという意味では同一です。

こういうきれいな結果になるのは、純正律に従った三音を使ったからです。平均律の場合はちょっと違った波形が現れます。平均律A-C\#-EによるAコードの波形はこうなります。

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周期性があるように見えなくもないのですが、よく見ると周期的にはなっていません。

平均律A-C-EによるAmコードの波形はこうです。

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同じく、周期的ではありません。

平均律の和音が純正律に比べて「濁っている」などと言われるのは、周期性がきれいに現れるか現れないかの差によるものではないかと思います。

私の個人的な音感では、平均律純正律の違いはそんなに敏感に感じ取れるわけじゃないのですが、数字やグラフで見ると、違いが明らかになるのはなかなか興味深いと思います。

さて、最初に示したグラフの正体は何かというと、平均律A-A\#です。

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半音違いの二音を重ねたらこういうグラフになります。グラフの高さが太っているとこと痩せているところが交互に現れてますが、これが「うなり」と呼ばれるものの正体です。半音違いではなく、もっと近い音を重ねると、太っているとこと痩せているところの現れ方がもっと長い周期になります。

上記のグラフはどれも、スプレッドシートを使って書かせています。音階表を作って、その表の中のどの音をどの程度の強さで重ねるかを入力すると、グラフが描かれるように作りました。倍音も計算した波形にすることも出来ます。もちろん、倍音の強さも可変です。

倍音の影響を見るために、純正律A-C\#-Eの三音を同じ大きさで重ねて、さらにそれぞれの音の二倍音だけを基音の半分の大きさで重ねてみましょう。

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周期性は損なわれていませんが、1周期内の波形が複雑になっていることがわかります。

こういう計算以外にも、三倍音、四倍音を入れたり、コードのパターンを変えたり、色々なパターンでグラフ出力が可能なので、なかなか便利なツールになりました。