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IBMの53-Qubit量子コンピューター

先日、IBMが53-Qubit(53量子ビット)の量子コンピューターを発表しました。

japan.cnet.com

記事を読んでもわかりにくいかもしれませんが、翻訳のせいではなく、元の英語の記事も似たようなものでした。

IBMのプレスリリースも貼っておきましょう。

newsroom.ibm.com


ともあれ、IBMは53-Qubitの量子コンピューターを実験室レベルでの実用化までこぎつけたと言ってよさそうです。先代は20-Qubitでしたから、倍以上の進化です。

現在、多くの古典コンピューター(=普通のコンピューター、スーパーコンピューターも含む)で使われているCPUは64bitですし、20年位前は32bit CPUだって数多くありましたし、53-Qubitの量子コンピューターというのは、もう相当に普通のコンピューターに近づいたと思われるかもしれません。

でも、現在のアーキテクチャ量子コンピューターにおける53-Qubitというのは、古典コンピューターで言うなら8bitコンピューターにも及ばない程度の狭い応用範囲しかないものです。

古典コンピューターの32bitを超えるビット数を持つのに、どうしてまだまだなのかというと、古典コンピューターと「量子ゲート型」の量子コンピューター(IBM量子コンピューターは量子ゲート型です)のアーキテクチャの違いによるものです。

古典コンピューターはソフトウェアやデータをメモリに書いておいて、メモリからソフトウェアとデータを読み出して、レジスター(データの一時的な置き場所、ソロバンの珠みたいなもの)と演算ユニットを使って計算を行います。

現在の量子ゲート型量子コンピューターには、メモリ(「量子メモリ」と読んだ方がよさそうですが)がありません。レジスターと演算ユニットだけで出来ている古典コンピューターを連想して頂くと、それが量子ゲート型量子コンピューターです。

モリーがありませんから、53-Qubitの量子コンピューターは計算対象のデータや計算の途中経過などの全てを53-Qubitに格納しなければなりません。メモリからデータをレジスターに読み込むこと(Load)も、レジスターの内容をメモリに退避すること(Store)も出来ないのです。

53-Qubitを使えば、「256 + 256 = 512」位の計算は出来そうですが、ちょっと複雑な計算をしようとすると、53-Qubitなどあっという間に使い果たしてしまいます。53-Qubitというのは如何に小さなサイズか想像出来ると思います。

Qubit(量子ビット)の数がキロとかメガとかの単位にならないと実用的なレベルでの量子計算は出来ないと言われています。そして、Qubitの数を増やすことは古典コンピューターのメモリやハードディスクの容量を増やすように簡単なことではありません(理由は省略します)。

53-Qubitはまだまだ実用化には遠い数字ですが、それでも、実用化に向けての確かな一歩であることは間違いありません。

今後もIBMGoogleの開発状況には注目したいと思っています。