科学と技術を雑学的に気まぐれに語るブログ 

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クラシックギターの高音弦の選び方【ギタリストのための音の科学 24】

諸般の事情で私は最近、ここ数年使っていた高音弦を変更しましたので、私なりの高音弦の選び方をまとめておきたいと思います。もちろん、「諸般の事情」も説明します。

 

言うまでもありませんが「どの弦が良いか」という問いには決まった答などありません。音色に対する個人の好み、優先する項目(音色とか音量とか価格とか、その他色々)、ギターとの相性、個々人の弾弦技術との関係など、様々な事柄に影響されますので、以下には弦の固有名詞が出てきますが、それはあくまでも「私のギターに張って私の技術で弾いた音を、私の耳と好みで評価した結果」を元に、「この弦は◯◯◯◯」という評価をしているにすぎません。

 

特に私は右手の爪を伸ばしていないため、爪で弾く一般的なクラシックギタリストのみなさんとは、条件が大きく異なりますので、その点はご承知おきください。

 

個人的な要素が強い評価ではありますが、【ギタリストのための音の科学】という副題ですから、単なる好みの話ではなく、また特定の弦の良し悪しではなく、高音弦の選び方について、ある程度は科学的な考察を行い、ある程度は全ギタリストに共通する指針を提示したいと思っています。

 

クラシックギターの弦は一般的に、1 - 3弦がナイロン(もしくはナイロンに近い素材)をそのまま紐状にしたもの(釣り糸と同様です)で、4 - 5弦がナイロンの糸を撚ったものに金属の細い紐を巻き付けています。作りの違いから、1 - 3弦を高音弦、4 - 6弦を低音弦と分類しています。で、今回の話題は高音弦の方。

 

過去数年間(10年近く?)私が使っていた高音弦はサバレスのアリアンスという弦です。アリアンスには張力の違いでノーマルテンションとハイテンションがありますが、当初はノーマルテンション、その後ハイテンションに移行しました。

 

アリアンスを選んだ理由は、通常のナイロン弦だと減衰が速くてボケた感じになる3弦の音が、アリアンスではかなり改善されているからです。その辺りの事情は以前、以下のエントリで書いたことがあります。

 

nose-akira.hatenablog.com

 

アリアンスを何年も使っていたのですから、アリアンスの満足度は高かったわけです。いや、過去形にする必要もなく、今でも良い弦だと思ってます。

 

アリアンスの特徴(他のいわゆる「カーボン弦」にもほぼ共通)は、素材の密度が高く、従って他のメーカー、ブランドの弦に比べて細く、張力が高い、という点で、その結果、3弦の音は減衰が小さめで、ボケた感じの少ない音色になっています。何種類かの「カーボン弦」を試して、私個人の総合的な3弦評価ではアリアンスが最も高かったのでした。

 

3弦の評価でアリアンスを選んだのですが、1弦と2弦にも満足していました。ただ、以下の3つの記事で触れているように、アリアンスの1弦は特に張力が高いのです。

 

nose-akira.hatenablog.com

nose-akira.hatenablog.com

nose-akira.hatenablog.com

 

張力が高いだけなら特に問題はないのですが、「私のギター、私の弾き方では」1弦のハイポジション(10フレット以上)で音がペシペシした印象(これも減衰が速いのだと思われます)だったのも事実。もちろん、どんな弦であってもハイポジションでは弦長が短くなって、振動に対する弦自体の抵抗が相対的に増えますので、減衰が速くペシペシした音になる傾向はあるのですが、アリアンスの張力の高さを数字で見てしまったので、この高い張力がペシペシを助長しているような気になってしまったのでした。

 

3弦はいわゆる「カーボン弦」であるアリアンスが必須ですが、1弦と2弦は通常のナイロン弦でも良いと思われます。こういう事を考えるギタリストは多くて、3弦だけをアリアンスにしている人も少なくありません。

 

参考情報(3弦のアリアンス率が高いです)

www.auranet.jp

 

アリアンスのメーカーであるサバレスも、こういった事情はよくご存知のようでして、「3弦はアリアンス、1弦と2弦は通常のナイロン弦であるニュークリスタル」というセットを出しています。このセットは「クリエイション」と名付けられていますが、ギターの弦というのは一般に、バラバラで買うよりも6本セットで買った方がお安い(値引率が違う)ので、このクリエイションを試すことに。

 

6本セットで買う場合、高音弦のクリエイションと組み合わせられる低音弦は、私が愛用していたコラムではなく、コラムの上位モデル的位置づけのカンティーガまたはカンティーガ・プレミアム。という訳で、カンティーガ+クリエイションのノーマルテンションを買って鳴らしてみました。

 

その結果ですが、残念ながらニュークリスタル1弦ではペシペシ感はアリアンスとあまり変わりませんでした(くどいようですが、私のギターで私の弾き方で、です)。ただし、全く予想していなかったのですが、ニュークリスタルの2弦が非常に良かった。指で押し込む時の抵抗感が弾きやすいし、開放からハイポジションまで音にパワーがあるし、ニュークリスタル2弦は非常に気に入りました。

 

そうすると、2弦はニュークリスタル、3弦はアリアンスに決まりで、1弦をどうにかしたいところ。そこで思い出したのは、以前に使っていた弦で1弦のハイポジションの音が気に入っていた、オーガスチンのインペリアルという弦です。

 

私は以前、高音弦はオーガスチン・インペリアル、低音弦はサバレス・コラムという組み合わせで使っていましたが、それを使い始めてから雑誌で読んで知ったのですが、このインペリアル+コラムの組み合わせは村治佳織さんが愛用しているとのこと。なんか嬉しかったですね。

 

この組み合わせはメーカーが異なる高音弦と低音弦の組み合わせなので、メーカーとしてのセット売りにはなりませんが、現代ギター社ではこの組み合わせを独自に仕立てて「オーガスチン・サバレス/KMセット」としてセット売りしています。KMってWebでは明言していませんが、Kaori Murajiですね。現代ギターの実店舗のポップには村治佳織さんが使っていると書いてあります。

 

下記ページの上から1/3位のところに「オーガスチン・サバレス/KMセット」があります。村治佳織さんにあやかりたい、一般のおっさんクラシックギタリストの需要に答える商品ですね。村治佳織さんとは関係なく、私は自分の耳で判断して使っていたのですよ、念の為。

 

https://www.gendaiguitar.com/index.php?main_page=string_order

 

さて、それはさておき、1弦のペシペシ感解消のために、オーガスチンのインペリアルを張ってみました。はやり、以前には好みで(私のギター、私の弾き方で)使っていただけあって、1弦の音は期待通りでペシペシ感はほぼ解消されました。

 

1弦ハイポジションのペシペシ感ですが、きちんとした考察は出来ていないのですが、張力の他に、弦の柔らかさも関係しているような気がします。ハイポジションで弦が短くなった状態で健全に振動してもらうためには、弦がある程度柔らかくないとならないように思います。実際、アリアンスは硬いので、それがペシペシ感の一因となっている可能性があると思います。

 

というわけで、私のギターの高音弦は以下のように落ち着きました。

  1. オーガスチン インペリアル
  2. サバレス ニュークリスタル
  3. サバレス アリアンス

高音弦が3本別々の弦になるなんていう事態は、全く想定したいなかったのですが、高音弦選びの基準として、多くのギタリストに共通するであろう、3弦のボソボソ感と1弦ハイポジションのペシペシ感(両方とも減衰が速い問題だとは思います)について考えていたら、こんな組み合わせになってしまいました。

 

多くの方は高音弦をセットで買われるでしょうし、こんなバラバラな買い方を推奨するわけではありませんが、高音弦の評価ポイントとしては、3弦のボソボソ感と1弦ハイポジションのペシペシ感は重要なのではないかと思う次第です。

 

ところで、上記のバラバラな組み合わせですが、私のギターの先生も全く同じ組み合わせで使っていることが判明しました。もちろん、そうと知っていた訳ではなく、「実は高音弦を変えたんですよ」と話していたら判明したのですけど、先生がこの選択をしていたことで、自分の耳もまんざらではないな、などと自己満足しているのでありました。

 

以上、私なりの高音弦の選び方とその結果でした。