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12分割以外の平均律の可能性【ギタリストのための音の科学 10】

前回は「平均律は1オクターブを12の音に分けて…」という話をしましたが、何故12なのか、という点には触れませんでした。

もちろん、理論的には12以外の平均律も存在しえます。ここで、12に分けた平均律を「平均律12」と表記することにしましょう。1オクターブを10に分けた平均律は「平均律10」、その他も同様です。

疑問点は「何故、平均律10や平均律13ではなく、平均律12が広まって定着したのか」です。平均律は12でなければならないのでしょうか? ギターとは直接の関係はありませんが、平均律12の必然性について考えてみたいと思います。

私は音楽史の専門家ではありませんし、音律・音階の発展の歴史にも詳しくありませんので、歴史的経緯についての考察は出来ないのですが、数学的というか物理学的というか、数字の世界で、平均律10や平均律13にはない平均律12の優位点を探すことは出来ます。

1オクターブを均等に分割することを考えると、3分割や4分割では音階としての数が少なく音楽の素材としては不十分な気がします。また、20分割ともなると、音数が多く煩雑ですし、声や様々な楽器で音を出し分けることが難しくなりそうな気がします。

そういうわけで、あまりに少ない分割とあまりに多い分割は割愛して、8分割から17分割の間で考えてみます。それ以外の分割に意味がないとは申しませんが、平均律12の優位性を見るためには、この位の範囲で十分なのではないかと思います。

直感的には12という数字は筋がいい感じなのですが、単なる直観なので、きちんと数字で見たいと思います。というわけで、前節で平均律12の振動数比を計算したのと同じように、他の分割での平均律も計算してみました。

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分割数毎に、1オクターブを構成する音の基準音に対する振動数比が計算されています。所々、文字のフォントが赤くなっていますが、その意味はこれから説明します。

スプレッド・シートを使えば簡単に計算出来ますので、興味のある方は、実用的にはほとんど意味はありませんが、平均律64なんかを計算させても面白いかもしれません。

それはさておき、平均律12と他の平均律との比較です。

比較のための基準として、「ハーモニーの作りやすさ」を設定します。その他にどういう基準があり得るのかもわかりませんが、この基準で平均律12の優位性がわかります。

音階を構成する音はメロディーを作るための素材であると同時に、ハーモニーの素材でもあります。そして、上表の各平均律を構成する音の一部または全部で音階が作られます。従って、上表にハーモニーを作りやすい音が含まれているかどうかが、その平均律でのハーモニーの作りやすさの指標となります。

不協和音だけで成立する音楽を完全否定するつもりはありませんが、一般的にはハーモニーとしてはよく響き合う音が必要でしょう。2つの音が「響き合う」には(と我々が感じるには)、2つの音の振動数の比が簡単な整数比になることが必要、と言われています。

例えば、二つの振動数の比が1.5だとすると、二つの振動数は2 : 3という簡単な整数比を持っていることになります(ここではあえて完全五度といった言い方はしません、何故なら平均律12以外も比較対象にしているため、○度という言い方が示す音程差がまちまちになるためです)。あるいは、振動数比が1.33333…ならば、3 : 4になりますし、1.25ならば4 : 5です。
基準音から1オクターブ上までの範囲で、このような切れのよい数字を探すと、振動数比で言うと、1と2の間で上記の1.25、1.33333…、1.5が挙げられます。つまり、基準音との振動数比が1.25、1.33333…、1.5になるような音を含む平均律がハーモニーを作りやすい、と言えます。

ここで、上表の赤文字に注目して下さい。

1.25、1.33333…、1.5の3つの数字に対して、±0.01以内の数字を赤文字にしています。±0.01には厳密な意味はありません。本来なら誤差のパーセンテージで評価すべきでしょうが、簡単のために差が少ないものを赤文字表記で目立たせてみました。

赤文字のところは、基準音に対する振動数比が「厳密に簡単な整数比」にはなっていませんが、「およそ簡単な整数比」で、ハーモニーとしても「ほぼ合っている」と評価してもよいと思います。そもそも、平均律は厳密なハーモニーを捨てて、調性に対する適応性を広げたものですので、平均律においてハーモニーに厳密性を求めても意味がありません。

そういう意味において、赤文字が多い平均律を「ハーモニーを作りやすい」と評価しても外れてはいないでしょう。逆に赤文字がない、赤文字がひとつ、といった平均律はハーモニーが全く作れないとか、極めて限られたハーモニーだけが存在する、と言えます。

表を見てわかる通り、平均律12だけが赤文字を3つ含みます。それぞれ、1.25、1.33333…、1.5に近い振動数比が実現されています。実際、我々が日常的に耳にする音楽の大半は平均律12であり、そこでは厳密ではないにしろ実用的で「ほぼ合っている」ハーモニーが実現されています。

もちろん、「ほぼ合っている」を良しとせず、「完全に合っている」ハーモニーを追求するアプローチにも価値があると思いますが、ここでの課題は種々の平均律の中での平均律12の優位性ですので、「平均律12は他の平均律に比べてハーモニー構成に優れるため、平均律12が定着した」という面は否定できないのではないかと思います。