数字で見る和音の響き【ギタリストのための音の科学 11】
スプレッドシート(ExcelとかGoogleスプレッドシートとかNumbersとか)で音の振動数(=周波数)の計算が簡単にできるので、和音についても計算してみたいと思います。
例えばドミソの和音、ドとミ、ドとソはどうして同時に鳴らすと「響きが良い」と感じるのでしょうか? あるいはドミソを同時に鳴らすと「響きが良い」と感じるのでしょうか? 一般的には、振動数の比が「簡単な整数比」で表される場合には響きが良いと言われています。
1オクターブ上がると振動数は2倍になりますので、「ド」と「1オクターブ上のド」の振動数の比はです。1オクターブの中で和音を考えるとしたら、簡単な整数比で表される2音はとの間の、例えばとかとかとかになります。
音楽用語で「短三度」「長三度」「完全四度」「完全五度」と呼ばれる音程(二つの音の高さの隔たり)がありますが、それぞれ下表のような振動数比になります。
短三度 | |
長三度 | |
完全四度 | |
完全五度 |
ただし、上記の表のようにきれいな振動数比になるには、それがきれいになるような音階(純正律)を採用した場合で、常用されている平均律ではこれらの振動数比からややズレてしまいます。「平均律は和音が濁る」などという表現がありますが、その濁りの正体はきれいな振動数比からのズレにあります。
参考までに、平均律での上表の比率はこんな風になります。
短三度 | |
長三度 | |
完全四度 | |
完全五度 |
これらのズレが大きいか小さいかは議論が分かれるところかもしれませんが、純正律の三度と平均律の三度は、聴き比べるとその違いがわかるはずです。
さて、ここで一旦は平均律を忘れて、きれいな音程(純正律)で和音を鳴らしたとして、どんな振動数比が出現するのかを計算してみたいと思います。和音の代表としてコードネームでいうとに登場してもらいます。との和音は下表のような構成になっています。
コードネーム | 根音 | 短三度 | 長三度 | 完全五度 |
これらの和音の構成音がどのような振動数比を生み出すのか、最初の表で表した振動数比以外にも、長(短)三度と完全五度の比率とか、各々の音の倍音との比率、倍音同士の比率など、単純な三和音であっても、振動数比は何種類も現れます。
というわけで、スプレッドシートシートを使って計算してみました。
まずはの和音を構成する音(倍音を含む)の振動数比を出来るだけ単純な整数比で表してみました。(クリックで拡大します)
この表の見方ですが、縦方向と横方向に和音の根音、三度、五度とそれらの倍音(ここでは五倍音までにしました)を記載して、縦横それぞれ音をひとつ取ると、交わったところに振動数比が計算できるようにしています。
対角線上のセルがグレーになっているところは、縦横で同じ音ですから、振動数比はになります。例えば、縦軸で「基音の根音」(つまりですね)を取り、横軸で「三倍音の完全五度」を取ると、振動数比はになります。
この表を見ると、四倍音と五倍音との比率のところにのように「簡単な整数比」とは言い切れないような数値になっています。
次に、の和音で同じ表を作ってみました。
個々の数値は違いますが、全体的な傾向はの場合と似ていると思います。やはり、四倍音、五倍音が関係すると、整数比が簡単ではなくなって来ます。
これらの表から、ギターなどの和音楽器できれいに和音を響かせるためには、高次の倍音(特に奇数倍音)はあまり鳴らない方がよい、という仮説が立てられます。この仮説が正しいかどうかは人工的に合成した音で倍音成分を変えて実験でもしないと断言出来ないと思いますが、おそらく間違ってはいないのではないかと思います。
上に示した表は、いずれも長(短)三度と完全五度が簡単な整数比になるような純正律を前提に計算したものです。実際に我々が耳にする音楽のほとんどは平均律で出来ていますので、平均律のコードの振動数比の表も上げておきましょう。
一見してわかるように、「簡単な整数比」ではない数字が並んでいます。もちろん、それらの振動数比は純正律コードの表のものに近いのですが、厳密には簡単な整数比にはなってくれません。それがいわゆる「和音が濁ってる」という状態です。
ギターのチューニングの時に、曲の調に合わせてよく使う和音の響きが良くなるように微調整することがあります。標準のチューニングでは平均律に合わせることになりますが、そこから微調整して部分的に純正律が現れるようにすることで、よく使う和音の響きを良くする、という意味があります。
ギターを普通にチューニングしてやのコードを弾いて、その後、4弦、3弦、2弦、1弦を微調整して、純正律の響きを探してみるのも面白い作業かと思います。