新しい弦と古い弦の音の違いをグラフで見る【ギタリストのための音の科学 17】
クラシックギターに限らず、ギターの弦を新しいものに交換すると気分が良いものです。新しい弦に特有の、明るいというか、輝かしいというか、シャリンとしたというか、そういう音がします。
逆に言うと、張ってからしばらく(数週間〜数ヶ月?)経った弦は、暗いというか、輝きのないというか、ドヨンとしたというか、そういう音がします。
こういった表現はまったく科学的ではなく、極めて感覚的な表現です。もちろん、感覚的な表現が悪いわけではなく、こういう感覚的表現であっても、その感覚が共通であれば、それはそれで便利ではあります。
ただ、ブログ記事のタイトルに「ギタリストのための音の科学」を掲げるのであれば、感覚的な表現の正体を科学的に解明すべきと考えます。
というわけで、新しい弦と古い弦の音の違いを科学的に表現することにチャレンジしてみます。実際に新しい弦と古い弦の音を測定して、どういう違いがあるか調べてみましょう。
以下が測定の詳細です。
高音弦測定 | Savarez Allianceの1弦開放 E = 330Hz |
低音弦測定 | Savarez Corumの5弦開放 A = 110Hz |
弦が新しい状態での測定日 | 2019年3月2日 |
弦が古い状態での測定日 | 2019年5月18日 |
ギター | 2007年制作 小林一三 No.50 |
解析ソフトウェア | Audacity |
マイク | iMac ビルトインマイク |
なお、低音弦のSavarez Corumは個人的な経験に基づく感覚としては、極めて経時劣化しにくい、長持ちする弦です。従って、他の弦よりも新しい弦と古い弦の差が出にくいかもしれません。
それでは早速、測定結果を見てみましょう。
まずは1弦開放。
1弦開放(330Hz)の場合、2倍音、3倍音……、だけではなく、1/3倍音、2/3倍音も出ています。新古の差として明らかなのは、古くなると2倍音がやや出なくなっていますが、倍音全体的には大きな差はないとも見えます。倍音以外では、古くなると60Hz以下のバックグラウンド成分も出なくなっていますが、元々のdbが低いので、人間が聞く音としては大きな影響はないかもしれません。
概して、1弦の場合は新古の差があまりないグラフに見えますが、それは我々の「高音弦の音はは経時劣化しにくい」という感覚あるいは経験則とも一致しています。
続いて5弦開放を見てみます。
5弦開放(110Hz)の場合は、1弦開放とは様子が異なります。まず、古い弦では4倍音(440Hz)のピークが極端に低くなっています。5倍音(550Hz)のピークも低いですね。また、60Hz以下の低音部バックグラウンド成分は、1弦とは逆に古い方が大きくなっています。全体的に1弦の低音部バックグラウンド成分よりはdbが高めなので、この差は人間にも感じられるかもしれません。
新しい弦に比べて、4倍音、5倍音が小さくなることで、明るいとか輝かしいとかいう新しい弦の特徴が失われ、低音部バックグラウンド成分が増えることで、どんよりした音になっているものと思われます。
上記の測定結果およびその考察については、科学実験としては不十分な点が多々ありますので、これが正しいと言い切るものではありませんが、弦が古くなると我々が感じる音の変化について、まがりなりにも測定を行い、新古のスペクトルの違いで考察し、感覚との一致を見た価値はあるものと思います。