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音の高低は何で決まるのか?【ギタリストのための音の科学 01】

メロディー、ハーモニー、リズムの三つは音楽の三要素と言われています。

 

この三つのうち、メロディーとハーモニーを成り立たせるために最も重要なものは音の高低と言えるでしょう。高低を変化させた音の繋がりがメロディーになり、高低の違う複数の音の組み合わせがハーモニーになります。

 

打楽器は別として、多くの楽器は音の高低をコントロール出来ます。もちろん、高低だけではなく、音の大きさや音色などもコントロール可能ですが、ここでは音の高低に注目します。コントロールのためのメカニズム(仕組み)は楽器によって千差万別であることはご存知の通りです。

 

ギターももちろん、高低をコントロールして音を出すことが出来る楽器です。ギタリストであれば、経験的にギターにおける音の高低に関係するメカニズムや原理を把握していると思いますが、次節でそれを改めて整理してみます。

 

ギターの話をする前に、まずは音の高低を決める物理量の話をします。ギターや楽器によらず、音としての一般的かつ科学的な話です。

 

音は音波と呼ばれる事があるという事情からも、「音は波である」という点は広く知られています。波(あるいは波動)の数学的に厳密な定義は置いといて、一般的には、何か(「媒質」と呼ばれます)が周期的に振動して、その振動が伝わっていく現象を波とか波動とか呼んでいる、という理解で問題ないと思います(音の話のために少々簡略化・単純化していますがご了承を)。

 

音とは空気の振動が空間を伝わっていく波動現象です。これもよく知られていることです。音の媒質は空気、ということになります。花火や雷のような非常に大きな音は空気が震える感じがしますが、文字通り空気は震えているわけです。

 

人間が耳の器官で空気の振動を感じ脳でそれを解釈して音として認識する仕組みについては、非常に複雑な機序が存在していると思いますが、ここでは話を単純化して、人間の聴覚や認識についてはとりあえず考えずに、音そのものの物理的な側面を見ていきます。

 

問題は「音の高低」でした。結論から言うと、「音の高低=音の振動数の大小」です。音の場合の振動数というのは、空気が1秒間に何回振動するか、という量です。振動数が大きい(=1秒間に振動する回数が多い)音を人間は「高い音」と認識し、振動数が小さい(=1秒間に振動する回数が少ない)音を人間は「低い音」と認識します。

 

何故人間が、振動数が大きい音を「高い」(キーンとした音)、振動数が小さい音を「低い」(ズーンとした音)と認識するのか、という疑問があるかもしれませんが、ここではそこに深入りしません。というのが先に述べた「人間の聴覚や認識についてはとりあえず考えずに、音そのものの物理的な側面を見ていきます」の意味です。

 

「音の高低=音の振動数の大小」は、音の高低の定義と言うよりも、測定に基づく事実と言うべきかもしれませんが、それはともかく、音の振動数の大小が高低を生み出している、という点が重要です。

 

音楽をやっている人なら「A=440Hz」という記述を見たことがない方はいないでしょう。A(あるいはラ、あるいはイ)の音は440Hz、という国際基準がありますので、多くの楽器、演奏家、バンドやオーケストラは「A=440Hz」でチューニングしています。ご存知の通り「A=442Hz」というチューニング、あるいはその他のチューニングもありますが、その違いや良し悪しについてはここでの論点ではありませんので、とりあえず「A=440Hz」として話を進めます。

 

「A=440Hz」の「Hz」は「ヘルツ」と読み、振動数の単位です。ドイツの物理学者であるハインリヒ・ヘルツから名付けられた単位で、1ヘルツは「1秒間に1回の周波数・振動数」と定義されています。「周波数」は「振動数」と同義とみなしてもかまいませんが、電気的現象の場合に使われる事が多いようです。Hzという単位は、音の他、電磁波(電波)やPCやスマートフォンで使われるCPUの動作周波数(クロックとも呼びます)の単位として使われることが多く、大きな振動数の場合はMHz(メガヘルツ=1秒間に100万回の振動)やGHz(ギガヘルツ=1秒間に10億回の振動)という風に用いられます。

 

「A=440Hz」とは「1秒間に空気が440回振動する音をAと定める」という意味になります。440Hzの倍の880Hzは440Hzの1オクターブ上のAの音になります。440Hzの半分の220Hzは440Hzの1オクターブ下のAの音になります。Aに限らずどの音であっても、振動数が倍になると1オクターブ上、振動数が半分になると1オクターブ下、になります。もちろん、振動数が4倍ならば2オクターブ上で、4分の1なら2オクターブ下です。

 

下表にA=440Hzとした場合の平均律音階上下1オクターブの音の振動数を示します。表の上が高い音です。小数点以下7桁位まで書いてあるところもありますが、平均律音階の計算を正直に行うとこういう数字になる、というだけの意味で、人間の耳で判断出来る音としては、小数点第一位あたりまでで充分だと思います。平均律音階については、後の節で説明します。

 

音名

振動数(Hz)

A

880.00

G# / A♭

830.6093952

G

783.990872

F# / G♭

739.9888454

F

698.4564629

E

659.2551138

D# / E♭

622.2539674

D

587.3295358

C# / D♭

554.365262

C

523.2511306

B

493.8833013

A# / B♭

466.1637615

A

440.00

G# / A♭

415.3046976

G

391.995436

F# / G♭

369.9944227

F

349.2282314

E

329.6275569

D# / E♭

311.1269837

D

293.6647679

C# / D♭

277.182631

C

261.6255653

B

246.9416506

A# / B♭

233.0818808

A

220.00

 

上表で各音の振動数がわかりますが、ギターにおいて440HzのAはどの位置でしょう? ギターを標準的にチューニングしてAの音を出せるのは、低い方から順に、

5弦の開放

3弦の2フレット

1弦の5フレット

という位置です(1弦の17フレットとか2弦の10フレットとか、他にもありますが)。

 

一方で、基準となる「A=440Hz」はト音記号の五線譜における第二間を指す、という決まりごとがあります(下図)。

 

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さらに、ギターの楽譜においては、実音よりも1オクターブ高く記載する、という慣習があります。

 

ギタリストは上の楽譜のAの音を出す時には3弦の2フレットを押さえます(もちろん、4弦の7フレットでもかまいません)。5弦開放や1弦5フレットではありません。

 

ところが、「ギターの楽譜においては、実音よりも1オクターブ高く記載する」なので、3弦の2フレットを押さえて出る音は440Hzではなくその1オクターブ下の220Hzの音です。

 

そうすると、440HzのAの音は3弦の2フレットよりも1オクターブ上、すなわち1弦の5フレットですね。我々はギターをチューニングする時、A=440Hzの音叉やチューナーを使って、まずは5弦開放を合わせますが、実際には5弦開放の音は440Hzではなく、その2オクターブ下の110Hzなのです。

 

以上を整理すると、

5弦の開放 : 110Hz

3弦の2フレット : 220Hz

1弦の5フレット : 440Hz

ということになります。

 

ついでに各弦の開放音の振動数は下表の通りです。

開放の音名

振動数(Hz)

1

E

329.6275569

2

B

246.9416506

3

G

195.997718

4

D

146.832384

5

A

110.00

6

E

82.40688923